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第1回

 

日時:2012年2月8日(火)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:日本の刑事政策を再検証~

講師:浜井浩一さん(龍谷大学教授)

 

 

講師の浜井先生は、法務省矯正局、少年鑑別所、少年院、少年刑務所など、法務省内のさまざまな施設・部署に勤務された経験をお持ちです。犯罪白書の作成にも関わっておられたことから、犯罪に関する統計を常に横断的に分析しながら、刑事司法の研究に携わっておられます。

戦後~近年の犯罪動向

 ここ最近では、「日本の治安は年々悪化している」などといった誤解をしている人はごく稀ですが、つい10年ほど前までは、先生が学生にアンケートを取ると、そのような間違った認識を持っていた学生も多かったようです。

 

 日本国内における犯罪の認知件数が減少しているという事実は、統計資料を見れば明らかです。例えば、殺人の認知件数についても、統計資料でその詳細を知ることができます。浜井先生が資料として使用した「犯罪白書」のデータを元に、「死刑に異議あり!」キャンペーンで作成した「犯罪認知件数」の年別推移です。
http://www.abolish-dp.jca.apc.org/content/dataroom/38

 殺人が最も多かったのは、1950年代半ばです。2009年、2010年は、二年連続で戦後最低を更新しています。また、殺人だけでなく虐待などの要因も含みますが、暴力によって死亡した人の認知件数も、年々減少しています。この要因としては、暴力事件の数が減ったというよりも、治療による救命が進んだことが挙げられます。

 

犯罪が減った原因

 犯罪の認知件数が減った最も大きな要因は、「少子高齢化」です。


刑法犯の罪名別認知件数,検挙件数及び検挙人員(平成2 ~21年)

http://www.stat.go.jp/data/nenkan/pdf/yhyou25.pdf
年齢層別の検挙件数を見ると、最も多いのは若年層です。犯罪で検挙される人が最も多い年齢は、日本では16歳、イギリスでは18歳、ノルウェーでは20歳です。就職、結婚などを経て、生活が社会的に安定すると、人は犯罪を犯さなくなる傾向にあります。若年層の犯罪認知件数が最も多かったのは、1960年代でした。少子高齢化によって、若年層の人口が減少しているので、犯罪も減っている。というわけです。この傾向は今後はさらに進み、犯罪はさらに減ってゆくと予想されます。

 

 また、外国人の犯罪はどうかというと、日本における、外国人の検挙人数についても、近年は減少傾向にあります。これも、浜井先生の言葉を借りれば統計資料の中にその答えがあります。


来日外国人犯罪の検挙状況(平成23年確定値) 警察庁刑事局組織犯罪対策部作成
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kokusaisousa/kokusai/H23_rainichi.pdf

こちらも、近年減少傾向がみられます。


 2004年に入国管理法が改正されたことにより、不法入国に対する取締りが強化され、
不法就労の外国人などを出国命令によって日本から退去させたことが原因であるとみられます。これは、言わば「排除の原理」に起因するもので、犯罪の原因を無くすのではなく、犯罪を犯しそうな人を排除することによって、犯罪の数を減らしていると言えます。

 

「非行少年の再犯率が過去最悪」の怪

 一部報道で、「非行少年の再犯率が過去最悪」という記事が掲載されたことがありました。確かに、少年の再非行率は、近年上昇しています。
ただし、「再非行少年率」は、非行少年のうち、再非行少年の人数を初犯少年の人数で割って算出しているものであり、そもそも、初犯少年の人数が年々減っているので、再非行少年率の値が大きくなるのは当然の結果であると言えます。

 

 このように、初犯少年の数が減っているという、ポジティブであるはずの情報を隠すことによって、少年犯罪は「最悪」と表現され、人々の不安を喚起するという動きもあるのです。浜井先生が法務省矯正局に勤務されていた1995年頃も、少年犯罪はすでに減少傾向にあり、当時議論されていたのは、少年院に入所する少年が激減したことによる、少年院の統廃合の問題であったといいます。

 

厳罰化とは何か

 厳罰化には、大きく分けて二種類あるそうです。
一つは「重罰化」で、懲役の年数を長くしたり、以前は略式起訴・罰金で済んでいたものを、公判請求を行うように変更されたものです。もう一つは、それまでは刑罰の対象でなかったもの、また、対象であるが運用上処罰してこなかったものの規制強化です。厳罰化を実際に実行する権利があるのは、警察、検察です。
 
 近年、自転車の交通違反に対する取り締まりが強化されていますが、かなり以前から問題になっていたのに「なぜ今なのか」と考えてみることが重要なのだそうです。実際には、交通事故の件数自体は減っており、交通警察に余力ができたタイミングが「今」であったためという理由が当てはまります。この場合、取り締まる側は、「大量逮捕を目論んで」というのではなく、あくまで「市民に対するサービスの向上」という解釈をしているそうです。

 

 日本国内では、年間約200万人の人が検挙され、そのうち、約3万人が刑務所へ収監されると言われています。刑務所へ収監される人の割合が少ないので、国際的レベルで見ると、日本は「寛容な社会」と言うこともできなくはないものの、刑務所受刑者の多くが高齢者で、万引きや無銭飲食などの軽微な犯罪を繰り返すいわゆる「累犯」だという理由で刑務所に送られている現状を把握しておくことが重要です。

 

 また、検挙されても、8割以上の人が実刑を免れることができているわけですが、公判において、「被害者との間で示談が成立しているかどうか」が、実刑を回避するための大きなポイントとなっているそうです。示談を成立させるためには、被害弁償を行うための経済力と、コミュニケーション能力が要求されます。それらの条件を満たせない生活困窮者、知的障害者、外国人といった人達は、必然的に実刑を回避できず、刑務所に収監される可能性が大きくなります。

 

第2回

 

日時:2012年3月13日(火)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:刑務所での体験が人生にどのような影響を及ぼしたか

講師:長期刑務所元受刑者

   社会復帰促進センター元受刑者

第3回

 

日時:2012年5月11日(金)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:刑罰の歴史~人間的な刑事制度に向けて

講師:赤池一将さん(龍谷大学教授)

第4回

 

日時:2012年6月13日(水)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:出所者の支援について

講師:小山内勝子さん(東京実華道場)

 

東京実華道場の前身である「野付牛少年道場」が北海道の北見でスタートしたのは昭和12年、その後、昭和24年に東京で事業展開を始め、今に至ります。現在は、文京区にある「ステップ竜岡」、墨田区の「ステップ押上」の二つの更生保護施設を運営を行っています。

東京実華道場の現状

 「東京実華道場」は、更生保護法人東京実華道場が運営を行っている、更生保護施設です。"更生保護施設"については、法務省のホームページをご参照ください。

http://www.moj.go.jp/hogo1/kouseihogoshinkou/hogo_hogo10-01.html

 

 「ステップ竜岡」は定員16名、「ステップ押上」は定員38名ですが、どちらも現在の収容率は100%以上で、過剰収容の状態が続いているそうです。保護観察の実施機関である法務省の東京保護観察所からの委託を受け、「委託保護」という形で運営を行っています。

 

受け入れが決まるまでの流れ

 地方更生保護委員会により、仮釈放が決定した受刑者について、更生保護施設に受け入れ可能な人を選ぶ、「生活環境調整」が行われます。これは、出所後に行き場のない人であれば誰でも更生保護施設に入所できるというわけではなく、「この人なら大丈夫だろう」と更生保護施設が受け入れ可能の判定をした人が、入所することができることを示しています。生活環境調整にあたっては、「身上書」、本人の犯罪歴などが書かれた書類などを参考にしながら、受け入れの可否を決定します。

 

 東京実華道場では、そられの書類を参考に、独自のチェックリストを作成し、利用しています。犯罪歴や本人にどのような問題があるかについて、職員が項目をチェックし、それを元に、本人と面接をするかどうかの決定を行うためです。最終的には、面接の結果、受け入れの可否を決定します。

 更生保護施設に入所すると、食事と住居の提供を受けることができます。そのほか、就職指導、生活指導などを行います。

 

 また、法務省では平成21年から「自立準備ホーム」を立ち上げ、出所後に行き場のない人たちの受け入れを開始しました。”自立準備ホーム”については、法務省のホームページをご参照ください。

http://www.moj.go.jp/content/000095436.pdf

 

 更生保護施設の居住の期限が6か月であるため、それ以上延長することができない場合や、どうしても居住地が決まらない場合に、一時的に自立準備ホームに入ることができます。

 東京実華道場では、墨田区内に木造の住戸を確保し、自立準備ホームとして運営を行っています。

 

生活指導と就労支援

 更生保護施設で過ごすこと、保護観察の一番の目的は、とにかく再犯をさせないこと。仮釈放の対象者であっても、再犯をしてしまう可能性はあります。それを防止するためには、とにかく就労できる環境をつくることが特に重要な要素となります。

 

 その点、東京実華道場では、ハローワークとの連携が、とてもうまくいっているそうです。ハローワークに、更生保護施設などを出た人達専門の窓口があり、そこへ行くと、向いていると思われる仕事を紹介してくれることになっており、とても良い関係性を保っているのだそうです。東京実華道場では、入所者の就職にあたっては、「協力雇用主による雇用」、「求人誌」、「ハローワーク」の三つが、おもな柱となっているそうで、そのうち、ハローワークを介しての就職が、全体の3分の1を占めているとのことです。

 

 また、入所者は、保護観察所で厳しい生活指導を受けたのち、更生保護施設に入所します。更生保護施設に入所する際も、施設ごとにさまざまな約束事があります。東京実華道場では、「門限を絶対に守ること」、「無断外泊しないこと」、「寮内では飲酒しないこと」などを入所者に約束してもらうようにしています。それから、就職した場合にお金を溜めることを指導しているそうです。ですが、これまでお金を溜めるという習慣がなかった人達が多く、なかなかうまくいかないので、金銭出納簿という貯金通帳のようなものをつけてもらうようにするなどの工夫を行っています。お金が溜まっていくのに喜びを感じることができるようになった人は、施設を出る時の事も考えて、貯金に励むようになるそうです。

 

特別処遇について

 東京実華道場では、高齢者、障がいのある人たちなど、「特別処遇」を必要とする入所者の受け入れを行っている、指定保護施設です。この政策は、平成21年から始まりました。そのため、施設には、社会福祉士、看護師などの資格を持つ職員が2名常駐しなければならないそうです。ステップ竜岡、ステップ押上の両施設でも、社会福祉士の資格を持つ職員の方が2名ずつ在勤しています。

 

 特別処遇の対象となる入所者は近年増えているそうです。東京実華道場には、現在6名の方が特別処遇で入所しています。

 

集団処遇と個別処遇

 更生保護施設で行う処遇については、「集団処遇」と「個別処遇」の二つに分けることができます。保護観察所で行っているのは、集団処遇です。

 

 東京実華道場では、入所者一人に対して職員が一人対峙するというやり方で、個別処遇を行っています。入所者は、刑事施設に収監されている時から、また、出た後も孤独を抱えている人が多く、それに寄り添う形で、「何でも相談していいんだよ。何でも相談しに来なさい」と声がけをするような処遇に取り組んでいます。

 

退所後のフォロー

 東京実華道場でも、他の更生保護施設同様、6か月未満で退所する入所者がほとんどです。退所事由としては、「円満退所」の割合が最も高く、退所者全体の8割ほどを占めていますが、「円満」といっても中身は複雑で、一言で言い切れるものではないそうです。

 

 ステップ押上で年に二回開かれる、地区の保護司の方達によるパーティーには、退所して近隣に住んでいる人達も集まるそうで、とても賑やかなのだそうです。パーティーでは、カレーを作ったり、日本の昔話などのお芝居を上演したりしています。

 

 東京実華道場では、退所した人に対して、「退所後のアンケート」を実施しています。アンケートは、6か月後にどこでどうしているかを書いて送るよう、退所時に渡しておきます。施設に居る間どうだったかについても、書いてもらうようにしているそうです。これは、約10年にわたって行われている取り組みで、回収したアンケートは相当数にのぼり、データとして活用できるだけでなく、職員のモチベーションを上げる意味でもたいへん役立っているのだそうです。

 

参加者からの質問

質問:更生保護施設の運営を「民間」で行うというのは、どのようなものですか?

小山内さん:民間ですが、法務省の委託で運営しています。職員の人件費など運営にかかる費用は、国からの委託費でまかなっています。

 

質問:入所期間が6か月というのは、ちょっと短いと思いますが、更生する期間としてどう思われますか?

小山内さん:6か月は最大で、もっと短い人が多いです。本当に短い人は、2か月くらいしか居ない人もいます。退所するまでには職に就いてもらって、収入が得られるように指導しています。それでも出られない人もいるので、その場合は「任意保護」という形をとることもありますが、現在では少なくなっています。

 

質問:退所した後も付き合いがあるというのは、すごいですね。

小山内さん:地域の保護司は、満期がきて縁が切れたら、もう関わってはいけないんですが、私どもは、負担が大きくても、彼らの精神的支えになるには、もう少し面倒を見たほうがいいと思うのです。でも、延々と続くわけではありません。昔から、お正月に顔を出してくれる退所者も、何人かいます。

 

質問:食住の提供、就職の斡旋、生活指導・援助のほかに、プログラムはありますか?入所後の毎日の生活は、どのようなものですか?

小山内さん:入ってきたら、まず就労を考え、ハローワークに自分で行ってもらうよう、周辺の地図を渡します。とにかく就労させること。それがないと再犯防止になりません。社会福祉士の資格を持っている職員が、区の福祉課との折衝に当たり、生活保護に繋げることもあります。就労先は、ほとんど入所者自身に探してもらいますが、私どもに登録された協力雇用主という方々がおられます。履歴書を出さなくても雇ってもらえる所が、数か所あります。そこをまず紹介して、日銭を稼ぐということができるようになりますが、永久的な仕事の場ではないので、悩むところもあります。

 

質問:入所者の人達は、どのような職業に就くことが多いのでしょうか?

小山内さん:ほとんどが大工です。職業欄には「建設業」と書きますが、土木工事で地下に潜ったりするような仕事が多いです。たまに、パソコンの技能を活かせるような仕事に就く人もいますが、そういった所は、履歴書を書くところで非常にネックになることが多く、とりあえず大工をやるか、ということになるのです。月給ではなく、日払いの仕事が多いです。それから最近は、介護の仕事に就く人が多いです。矯正施設の中で、資格を取るための勉強をする所もあります。資格を取るのは、矯正施設を出た後になります。

 

質問:ハローワークに、更生保護施設専門の窓口があるのですか?

小山内さん:更生保護施設だけのものではないと思います。それから協力雇用主は、東京実華道場の協力雇用主ということでハローワークに登録されていますので、窓口で紹介してくれることもあります。

 

質問:知人、雇用主などが身柄引受人になっていても、更生保護施設に入ったら、そこが身柄引受人になるのですか?

小山内さん:私どものところへ来るのは、身柄引受人がいない時です。帰住地、引受人がいない人がほとんどです。

 

質問:更生保護施設に対する評価として、円満退所する人が多いほうが、良い施設だと言えるのですか?その場合、問題がある人はどこにも行けなくなってしまいますか?

小山内さん:入所者が問題を起こしても、それが施設のミスになるということはありません。東京実華道場は住宅街の中にありますが、大きな事故とか騒ぎは起こっていません。それから「円満退所」というのは、期限がきて、事故がなく施設で過ごせたこと、一定のお金が溜まった、住む所が決まったということですが、雇用主の所に住み込みで働く場合も、円満退所ということになります。

 

質問:更生保護施設で受け入れられない人とは、どういう人ですか?

小山内さん:例えば「放火」という罪名だけでも、受け入れないという所が多いです。性犯罪も同様です。それではその人が救われないので、罪名だけでは決めないというのが、私どもの理事長の理念です。犯罪歴をよく見ると、常習的ではない場合もある。そういう場合は面接をしてから、受け入れるかどうかを決めます。広島や三重、青森など、遠方の施設に面接に行ったこともあります。

 

第5回

日時:2012年7月11日(水)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:障がい者や高齢者の出所後の支援について

講師:森久智江さん(立命館大学法学部準教授)

   佐久間裕章さん(ふるさとの会代表理事)

   秋山雅彦さん(ふるさとの会)

日本における障がい者、高齢者の犯罪

 最初に森久先生から、日本における障がい者、高齢者の人達が関わっているとされる犯罪の現状について、お話がありました。2000年頃から、日本国内で起こっている犯罪について、障がい者、あるいは高齢者が関わっている特徴的なケースがあると言われ始めました。なかでも2006年に、元受刑者で元国会議員の山本譲治さんが、著書を通して、「刑務所の中には凶悪な犯罪者がたくさん入っていると思っていたが、実際に入ってみると、「凶悪」という言葉とはほど遠く、社会の中では「社会的弱者」という言われ方をするような人のほうが多いんじゃないかと感じた」と発表したことが、社会的に広く認知されるきっかけになったようです。

 

 その結果、当時世間で言われていた「近年凶悪な犯罪が増えている」というイメージと、実際に刑務所に入ったり裁判を受けたりしている人達との間にはずいぶんとギャップがあるとういうことがわかってきました。

 

刑務所における障がい者、高齢者の割合

 新しく刑務所に入所する「新受刑者」と呼ばれる人達の数は、この10年間で約2万2000人から3万2000人に増えたと言われています。その人達について、刑務所に入る際に精神診断を受けて、どの程度の知的障がいがあるか、精神病質であるかを診断したところ、知的障がいに限らず、精神障がい等も含めて、緩やかな右肩上がりで増えてきています。


 刑務所の中での知能指数は、CAPAS(キャパス)と呼ばれる矯正心理測定検査を用いて測定します。その数値評価は、一般的なIQと同等です。知的障がいの基準がだいたいIQ69以下とされているなか、69以下の人の割合は、平成17年時点で刑務所に入っている人のうち約29%でした。


 次に、高齢者については、65歳以上を高齢者として、警察に逮捕された人の数を見た場合に、全体の中に占める割合は、急激に増えています。また、刑務所の人口が、平成17年を境に徐々に減ってきているなか、高齢受刑者の割合は、増える傾向にあります。


 高齢者がどういった犯罪を犯して刑務所に入ってくるかという観点で見ると、その半数は「窃盗」です。万引き、あるいは万引き以外の窃盗を指します。全体的に見るとほとんどが軽微な犯罪、女性については、万引きが80%を超えているという結果となっています。


 日本の刑事司法では、「累犯加重」と言って、一度刑務所に入った後、二回、三回と同じような犯罪で刑務所に入るほど、刑が重くなるという特徴があります。近年、高齢受刑者の中でも、6回以上刑務所に入ったことがある人の割合が、急激に増えています。また、障がい者や高齢者が刑務所に入った場合、仮釈放になりにくいという問題もあります。一般受刑者の仮釈放率が約49.1%なのに対し、高齢者の仮釈放率は、約28%だと言われています。

 

専門家による障がい者犯罪の誤解

 弁護士、検察官、裁判官といった、刑事司法に関わる人達の、「障がい者の犯罪」に対する誤解についても、森久先生は指摘されました。それは、「知的障がいのある人達が刑務所に行く訳がない」という誤解です。そこには、軽度の知的障がいというものが、見た目には分かりにくいので見極めが難しいという問題があります。見た目で分からないので、普通の人達と同じように刑事手続きに関与してしまっているということになります。さらに、裁判などで刑事責任能力が問われる場合に、日本の刑法では「心神喪失」、「心神こう弱」は罰しないまたは減刑することになっているため、知的障がい者や、あまり活動能力がない高齢者は、そもそも刑事責任がないのだから罰せられていないと勝手に思い込まれていたことも問題でした。


 障がい者、高齢者だから犯罪を犯しやすいというデータは、世界的に見ても一切ありません。犯罪に至ってしまう理由は、本人の気質とは別のところにあるのですが、特に発達障がいのある子どもなどは、「犯罪を犯しやすい」という誤ったイメージを持たれやすい傾向があります。


 障がい者、高齢者が犯罪を犯してしまう原因としては、まず、高齢者の場合は、人口全体に占める割合が、約20%にまで増えているということと、高齢者世帯の収入が、全世帯の約半分であることが挙げられます。高齢者にとって、生活し辛い状況になってきていると言えます。


 一方、障がい者については、障がいがあることによって他人とのコミュニケーションが取りづらい、周りから誤解されるということが要因で、孤立感が深まり、自分に対する自己肯定感が下がって様々な問題に繋がっていることが要因だと言えます。また、福祉においては、近年「脱施設化」、以前は施設で囲い込まれていた障がい者の人達に、地域の中で自立して生活してもらおうという考え方の施策がすすめられているものの、適切なサポートが充分に機能していないという問題もあります。

 

刑事手続きと刑務所の問題点

 日本の刑事手続きについては、捜査において「自白を重視する」という特徴があります。取り調べは警察の取調室の密室で行われ、外から様子をうかがい知ることはできません。また、逮捕されてから最大23日間警察に留め置くことができ、その間に自白しないと帰してもらえないという状況も、障がい者、高齢者にとってはかなり厳しいものであるようです。その結果、取り調べの中で、取調官、警察官の誘導に乗りやすいことや、犯罪に至った理由を説明できない、自己弁護できないという問題にも繋がります。


 刑務所については、全てを制限され、自律性が必要とされない生活であるため、言われたことをやっておけばいいということで、障がい者、高齢者の人達にとって、ある意味「馴染みやすい」場所であることも問題の一つであることが指摘されています。また、満期出所者の場合、引受人がいない、仕事が決まらないという中で、空腹のせいで万引きをしたり、何らかの再犯をしてまた刑務所に戻ってしまう傾向も強くなってきています。「犯罪に対して責任を取れ」と社会は言うものの、そもそも責任を問う前に、本人の生活もままならない場合、その人達に刑罰を科す意味とは、何でしょうか?

 

ふるさとの会の概要

 「ふるさとの会」について、代表理事の佐久間さんより、お話がありました。「ふるさとの会」は、もともとはホームレス支援、路上生活者支援からスタートしました。1990年にボランティアサークルとして、山谷地区の公園で炊き出しを始め、1999年にNPO法人となりました。路上生活をする人達が継続的に居られる「居所」をつくり、地域のアパートなどを借りて暮らせるようになるまで、継続的な支援をする、地域に移った後、再度路上に戻らないように継続的なアフターケアをするというのが、開始当初の方針であったといいます。

 

 支援をしていくなかで佐久間さんは、路上生活の過酷さを痛感されたそうです。路上生活経験者の方で、「多臓器不全」で亡くなる人が少なからず居たそうで、そういった人達は、肉体労働で体を酷使しているせいで、臓器もほとんど痛んでいるのだとか。また、メンタル面においても、人の目がある中で路上にダンボールを敷いて寝るということは、自分の神経を何らかの形で鈍磨させないと耐えられないので、そのためにお酒を飲むなどといったことも考えられます。そのため、困っている人達を、「路上生活になってしまう前に支援しよう」という考えに結びついたのだそうです。


 現在、台東区、墨田区、荒川区、新宿区、豊島区で宿泊所の運営を行っています。施設は、町工場やホテル、簡易旅館など、もともとあった建物を利用しています。事業としては、「更生保護法人同歩会」としての活動と、自立準備ホームの二本柱となっています。


 更生保護法人同歩会としては、「継続保護事業」を行っている東京実華道場などとは異なり、「一時保護事業」という形で、更生保護施設を持たず、満期出所して住むところも仕事もお金もないという人達からの相談を受け、一時的に保護するという事業を行っています。また、勾留中の人に対しても、被疑者、被告人の段階から身元引受人になるという形でのサポートも行っています。情状証人として、裁判に出廷することもあるそうです。運営は、山本譲治さんをはじめ、地域定着センターや社会復帰促進センターの責任者の方々などと共同で行い、ふるさとの会が実務を担うという体制となっているそうです。

 

利用者との関わり方について

 次に、ふるさとの会職員の秋山さんより、実際の実務内容についての説明がありました。

 

 利用者がふるさとの会と関わるようになるきっかけは、それぞれの人によってさまざまです。路上生活をしている人が直接訪ねてくるわけではなく、福祉事務所などを経由することがほとんどです。特に最近は、4割近くの人が、病院からの紹介なのだそうです。公園で具合が悪くなって救急車で運ばれた後、急性期の治療が終わって、引き取る人が居ない場合は違う病院への転院を数ヶ月ごとに繰り返していくことがよくあるそうで、そういったケースを、「社会的入院」と呼んでいます。そのほかは、刑務所を出所した人、なかでも年齢が80歳くらいで、累犯の人を受け入れることもあります。利用者を迎える際には、路上生活に戻ってしまわないように、これからどうやって暮らしていきたいかなど、本人の希望を聞きながら支援することが重要なのだそうです。


 ふるさとの会では、宿泊所のほかにも、高齢者の介護施設の運営を行っています。働いている職員の中には、もともと路上やネットカフェで生活していたという方もいるそうです。その人数は、ふるさとの会の全職員249人のうち、94人にのぼります。そういった人達が共同生活をするための「就労支援ホーム」を設けているというのも特徴的で、ふるさとの会では、「ケア付き就労」と呼んでいるそうです。

 

参加者からの質問

質問:自立準備ホームの方は、どのくらいの人数が、どんなところで就労されているんでしょうか?

秋山さん:40名、57%が就労しています。だいたい建築土木が多いです。自立準備ホームでは、法務省が住まいと食費を援助しますが、60日間で移らなくてはいけないので、その間にいくらかお金を稼いでも、アパートを確保するのは難しいので、建築土木や警備員など、住み込みができるようなところを中心に探します。履歴書を作る時には、刑務所にいたことを言ったほうがいいとすすめています。なぜなら、隠していてもし見つかった時に、クビにはならなくても辞めるように仕向けられたりすることもあるので。前歴があっても受け入れてくれる、雇ってくれるところがいいんじゃないかということです。

 

質問:仕事は、自分達で探すのですか?

秋山さん:ハローワークへ一緒に行って、自分達で探してもらっています。履歴書を書いたことがない人もいるので、サポートもします。自分の前歴を明かして、どこにも雇ってもらえなかった時に、とりあえず、ふるさとの会で働いてもらうこともあります。先ほどの94名の職員というのも、そういった形です。

 

質問:就職した後の状態はどうですか?

秋山さん:今のところ、刑務所を出た人よりも起訴猶予になった人などが多いせいもありますが、中には自分で起業したり、お店をやっている人、就職して営業本部長になっている人もいます。

 

質問:軽微な犯罪や、同情できる犯罪ではなく、凶悪な犯罪を犯した人となると、世間の目も違うと思いますが。

秋山さん:「何で加害者を支援するんだ?被害者のほうはどうなるんだ」とよく言われるんですが、その加害者を支援することで、新しい被害者を生み出さないようにすると考えています。

第6回

日時:2012年9月13日(木)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:メディアがつくる犯罪~光市事件から

講師:綿井健陽さん(フリージャーナリスト)

第7回

日時:2012年11月22日(金)

19時~21時

 

会場:スリランカ料理&BEER Palette

テーマ:現在の社会政策に欠けている点は何か/

    何が必要とされているのか

講師:稲垣浩さん

(労働運動家/釜ヶ崎地域合同労組委員長)

第8回

日時:2013年1月16日(水)

19時~21時

 

会場:アムネスティ日本 東京事務所

テーマ:寛容な刑事政策と死刑廃止

講師:稲葉剛さん(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事)

   海渡雄一さん(監獄人権センター)